""これまで彼女は何人くらいいたんですか?""
女子との初デートで聞かれる確率70%。サッカーでPKが決まる確率と同等である。聞かれるも同然の質問なので、答えを用意しておく必要がある。occkhamはいつもこう答える。
""秘密。仲良くなったら答えますね""
これは、occkhamの会社同期の超モテ男が使っている相手に追わせるテクニック。恋愛は、偶然または勘違いから始まり、理解することで冷めていくというが、つき合う前の段階で情報をオープンにしすぎるのはよくない。
""えー。なんでですか。結構モテてきましたか?""
""さー?どう思う?""
""モテそうです。というか、慣れてそうですもん。若干ちゃらいのかなって思ってます。""
ここまで言わせたら勝ちも同然だ。チャラいという言葉はこの世で最高の褒め言葉だと、occkhamの友人のナンパ師は言っていた。たとえば、ぬくみずさんに対して世間はチャラいというだろうか。いや言わない。EXILEのTAKAHIROは?合コンに着たら確実にチャラい印象を受けるだろう。それは確かに褒め言葉なのである。occkhamは決して、たかひろに肩を並べられる存在だとは到底思えないが、しかし、一方で、そこらへんにいるミドルステース男子よりも一皮向けた男であることの演出ができるのである。
""さとみさんはモテるんですか?""
""いや全然モテないですよ。おじさんとかにはもてますよ。でも、同世代とか全然です""
これは、半分嘘で半分本当なのだろう。これほどの美人は逆に手が出せないのが当然である。自分がバジリスク並の戦闘力があることを分かっていない。もしくは、相手を傷つけてしまう薔薇だと気づいていないのである。
"へーそうなんですね。モテないんだね。"
敢えて否定はしない。この会話において彼女は否定することによる同意を求めている。それは分かっていた。しかし、敢えてそれはしない。相手に自ら否定させるのである。
""でも、彼氏は最近まで今したよ。つき合った人数は少ないですが、一人だった期間は短いんです""
自分で否定してきた。予想通りだ。
この辺の会話のラリーはテニスに似ている。スライスで丁寧に丁寧に足下を狙ってきたかと思えば、トップスピンをかけたボールでコーナーをついてくる。しかし、occkhamはテニスの王子様の手塚部長が繰り出す、手塚ゾーンを習得している。打てども打てども部長の手元にボールが戻ってくるのである。
""やっぱりモテるんですか""
ここで同意。彼女は心なしか満足げだ。ここは話題転換のポイントとみた。
""CAさんなら、合コンとか結構あるんじゃないですか。商社マンとか外資系とか。""
""1年目とか結構ありましたね。楽しいけど、ノリがあわないというか。あんまりみんないい印象を持ってないですよ。""
やれやれ。やっぱり商社マンさんが東京界隈において大暴れだ。しかし、同時にあのノリに合わないと感じる女子も少なからず存在するのは事実だ。ミドルステータス男子は、このこぼれてきた最高の球をゴールに蹴り込む準備をいつもしておかないといけない。代打という役回りでも自分を最高の状態に保つイチローのように。
""じゃ、商社マンとデートとかもいかないの?""
""ただ、、私、前の彼氏は商社マンでした""
空いた口がふさがらなかった。目の前にあったフォカッチャで空いた口をふさぐのが精一杯であった。イタリア料理では、パンをちぎるのがマナーであるが、そんなものは、もうどうでもよかった。
やはり、手塚部長は所詮中学生なのである。あれだけ凄い技を持っていても、やはりただの中坊なのである。彼女が放ったその強烈なショットにocckhamは身動き一つとれなかった。その時に気付いたのである。自分が相手をしていた選手はただの女子選手なんかじゃなかった。ビーナスウィリアムスだったことに。
次回につづく