""occkhamさん、面白いですね。私、面白い人好きなんです。""
世のミドルステータス男子は、こんなことを言われてどう思うのだろうか。この女は、もうおれに興味があるな。はたまた、この女は、やれるかもしれない。そんなとこだろうか。
そんな妄想おままごとは、やれたかも委員会|吉田 貴司|cakes(ケイクス)でお楽しみいただきたいところである。
芸人並みに面白いと思わせてはならない。ただ面白い人で終わってしまう。親切さも同様である。ただの優しい人という印象で終わってしまう。ミドルステータス諸君。そんな無惨に散った経験はないだろうか。
たとえば、あのイチローがサッカーもすごく上手かったとしよう。世間はきっとこういうだろう。'イチローってすげえな。野球だけじゃないんだぜ。サッカーもうまいんだってよ。やっぱり何やらせても一流は一流なんだ'と。しかし、サッカーはプロ並みにうまいなんて誰一人おもっちゃいない。
'面白いですね'
行間を読む必要がある。
[occkhamさんは、すごい紳士的で男らしくて魅力的な男性だと思いますが、話してみると]面白いですね。
という意味なのか、ただただ、
[芸人なみに]面白いですね
なのかは注意深く観察すれば分かるはずだ。
この日確かにocckhamは一言も面白いことを言った覚えはなかった。それは、謙遜ではない。確かに、十八番のすべらない話を披露したつもりはないのである。昔、中学校のオリエンテーション合宿でしおりの持ち物欄に書いていた"洗面具"を読み間違って、"名前入りの洗面器"を持っていた話などしていなかった。その日の会話を議事録に残すようなことをしたら、それはとんでもないことになる。
しかし、彼女は確かに感じたのである。この目の前に座っている男性は、非常に魅力的な男性であり、自分をわくわくさせる存在なのだと。
ここまでのところ、occkhamは手応えを感じていた。ハイステータス女子との試合は互角以上の展開だと。
""お待たせしました。カルパッチョでございます""
店員さんがお皿を目の前に並べた。すかさずocckhamは取り皿にそれを取り分ける。その間髪入れない所作は、自分でいうのもあれだが芸術的だ。敵将の戦意を喪失させるために作られた利休の茶の間のそれに匹敵するはずだ。
"そんな気を使っていただかなくてもいいですよ。むしろ、私がやらないといけないのに"
なんてベストな回答なのだろうか。occkhamが求める回答が返ってきた。気がつかえる子なのだ。見せかけだけの美人は世の中に五万といるが、この子は本物のハイステータス女子なのかもしれないとocckhamはそのときそう思ったのである。
"私VIP対応の時に、機内でよくお皿に取り分けているので得意ですよ"
やれやれ。なんともすがすがしいほどにCAであることを意識させてくる。しかし、驚くべきことに、そのすがすがしい回答にむしろ心地よささえ覚えている自分がいることに気付いた。
この子は本当にプライドを持って仕事をしている。この記事には、これ以外の会話のやり取りを書いていないので伝わりにくい部分もあるかと思うが、仕事に真摯に向きあっているのである。その部分を知らずに接してしまう鼻についたり悪いように妄想がふくらみ勘違いする人はかなりいるのではないか。
服装に目を写す。彼女が着ていたワンピースはしっかりとアイロンがかかっていた。ほとんど確信していた。この子は本物なのだ。きっとそうに違いない。
そうこのときまでは。
次回につづく。